【おすすめ本21】ジャレド・ダイアモンド著「銃・病原菌・鉄」 書評

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なぜ、白人が世界の覇権を握ったのか?

 人類は700万年前に南アフリカで誕生し、50万年前までにユーラシア大陸のほぼ全域に進出、10万年前に言葉を使い始め、1万年前には南アメリカ大陸の最南端まで到達。その時点では全員が狩猟採集生活だった。

住んでいた場所に栽培しやすい植物があったかどうか?

 栽培や保管がしやすいのは、温帯(夏冬がある)に生える1年草の穀類・豆類。ユーラシア大陸は温帯の地域が東西に長く伸びる地形であるため、栽培しやすい1年草の植物が多数存在した。また、ある地域で栽培が開始された植物は東西の交易によって容易に広がっていった。

 一方で、アフリカ大陸や南北アメリカ大陸では栽培しやすい植物が少なく、大陸が南北に伸びていたために栽培が開始された植物があっても「気候が違うため他地区では育たない」となって広がるのに時間がかかった。

 オーストラリア大陸は降水量が少なく数年周期の気候変動が起きるために、農耕に適した1年草は存在しなかった。

 だから、農耕が始まったのはユーラシア大陸が最も早く、かつ他地域よりも多くの品種を栽培できた。

近くに家畜化しやすい動物がいたかどうか?

 体重45kg以上の動物は148種いるが、そのうち家畜化されたのは14種類だけ。サハラ以南のアフリカ大陸に生息する大型ほ乳類は凶暴で手に負えなかったり性格が悪かったりで家畜化できず(本著で記載はないが、人類の誕生から長期間の付き合いで人間に対する耐性を身につけたのか?)。ユーラシアでは馬、牛、豚、羊、山羊、・・・と13種が家畜化。南北アメリカ大陸とオーストラリアでは人類の移住と共に大型ほ乳類が大量絶滅し、家畜化する機会は失われた。

 その結果、ユーラシアとアフリカ北部ではメジャー5種含む13種が家畜化、そのうち西南アジアでメジャー4種含む7種が家畜化されている。南米では1種。北米、オーストラリア、サハラ以南のアフリカ大陸 では0。家畜を動力として使えるようになったユーラシアでは人力に頼った他地域よりも生産効率も高めることができた。

 農耕・畜産をいつ開始できたか。この最初の1歩の違いが後々に大きな差となって現れる。

人口増加と近隣への侵略

 狩猟採集から農耕畜産に切り替えると、人口密度は10~100倍になる。余剰食糧ができると専門職を養えるようになり、分業化により生産効率が高まって更に人口は増加する。また、近隣の狩猟採集民への侵略も可能となる。

 人口の増加と分業化は技術進歩も産み出す。文字、製紙、冶金、航海術、政治制度、火薬、銃、水車、・・・。ユーラシア大陸では農耕畜産と技術革新が進んで人口が増加し、東西の交流によって更に技術進歩が加速した。一方、サハラ以南のアフリカ大陸、南北アメリカ大陸、オーストラリア、ポリネシアは地理的要因から技術が伝わらなかった。そのため、ユーラシアと他地域のパワーバランスには大きな差が生じた。

ユーラシア大陸の中で、なぜヨーロッパが覇権を握ったか?

 農耕を始めたのも文字を発明したのも西アジアが最も早い。しかし、西アジアは人口増加と森林資源の消費により砂漠化し競争力を失った。次に覇権を握ったギリシャも森林資源の喪失により失速。降水量の多かったヨーロッパと中国が候補として残った。

 中国は世界最高の技術水準を有し、1405年から1433年にかけては2万人の大船団を7度も派遣しアフリカ大陸にまで到達している。しかし、1433年に政争により外洋航海の禁止令が発令される。政治的に統一されていたために、たった一つの決定によって中国全土から造船所が消え、水力紡績機や時計もなくなり、技術の進歩が止まってしまう。

 1500年代に、ユーラシア大陸西端にあり複数の国が常に競い合っていたヨーロッパ諸国が南北アメリカ大陸への侵略を開始。南北アメリカ大陸から略奪した資源で技術力と軍事力を拡充し、アフリカ・アジア・ポリネシア・オーストラリアを侵略して、白人による支配が確立した。

13000年の歴史が一冊に詰まっている。

 ざっとまとめましたが、他にも「なぜ病原菌なのか?」や”アンナ・カレーニナ則”や「発明は必要の母」など目からウロコの情報がてんこ盛りです。簡単に読める本ではないですが、読む価値はあります。

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