【おすすめ本16】池上永一著「夏化粧」 書評

おすすめ本

 『典子が他の店より高い大根を買うのも、私がかけたまじないのせいです。有紀がレジでいつも待たされるのも、私がかけたまじないのせいです。洋平がパンツを後ろ前に穿くのも、私がかけたまじないのせいです。美穂の口紅がいつもはみ出ているのも、私がかけたまじないのせいです・・・・・・』
(池上永一著「夏化粧」21ページより引用)

 島の産婆の葬式で読み上げられた遺言「その産婆に取り上げられた2369人の子供たち全員にまじないをかけたこと」「そのまじないが全て現実になっていること」が明らかになり、島は大パニックに陥る。

 主人公の津奈美の息子にかけられたまじないは「母親以外は誰も見えない」。自分以外の人には見えない我が子のまじないを解く方法はたった一つ。

他人から”願い”を奪う。

 一人の人間には”産まれた時に母親がかけた7つの願い”が籠められているが、まじないをかけられると”願い”は消えてしまう。そして、まじないを解くためには消えてしまった願いを誰かから奪って7つ揃える必要がある。

東京ドームを満員にするアーティストになる筈の少年。
将来オリンピックで金メダルを取るアスリート。
ハリウッドに進出するはずだった映画俳優。
想像力豊かで人生を漫喫している少女。
真面目で仕事熱心な豆腐職人。
勉強が大好きな孫。

 津奈美は”陰の世界”に飛び込んで他人の”願い”を奪っていく。しかし、どうしても7つ目の願いが思い出せないまま、最後のチャンスの日を迎える・・・。

全ての母親は我が子に”7つの願い”をかけている。

 読み終わった後には、素直にそう思えるようになります。自分にはどんな願いがかけられたのか、今その願いは実現しているのか、・・・と考えてみるのも面白いです。「最近うまくいっていなくて元気がない」という方に特におすすめです。

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